両電源版 オーディオアンプ

2019.5.6 改訂

プラス・マイナス 5 V の両電源で駆動します。 当初、USB 用の AC アダプター (DC 5V) と反転チャージポンプ 使うことを考えていました。しかし、アンプは 大きな電流を要求します。 電圧の最大振幅を 3 V, スピーカーを 6 Ω とすると、 最大電流は片チャンネルで 3 V / 6 Ω = 0.5 A です。 ステレオなので 2 チャンネルで 1 A です。 最大値 1 A の電流を要求するアンプに対して、 私が購入した反転チャージポンプ LTC3261 (最大出力電流 100 mA, 出力抵抗 32 Ω) は全く力不足でした。出力電流が足らない上に、 50 mA 流すだけで 50 mA×32 Ω = 1.5 V の電圧降下となり、 出力抵抗が大きすぎます。 というわけで、整流回路も自作しました。

後から知ったのですが、DC 12 V を入力すると、 ±5 V を出力する素子があります。AC アダプタと これを使うのが最適かもしれません。

電源部

電源部の回路図は以下の通りです。画像を クリックすると、PDF ファイルが開きます。

ヒューズは AC 100 V 側に 0.2 A を入れました。 定常時はこれより遥かに低い電流しか流れませんが、 電源 on 時の突入電流に耐えるためにこの値が 必要です。0.1 A では切れてしまいます。

ヒューズは直径 2 mm のものと 3 mm のものがありますが、 2 mm の方がよいです。ヒューズの内部抵抗の 実測値は以下のようになっており、 抵抗が少ない方がヒューズでの電圧降下が少なくなります。

電流Φ3Φ2
0.1 A35 Ω
0.2 A13 Ω8.6 Ω
0.3 A4.6 Ω
0.5 A2.2 Ω

トランスはトヨズミの HT6052 を使いました。 交流出力が 6.3 V(実効値)なので、 振幅は 6.3 V x 1.4 = 8.8 V になります。 これを全波整流回路で整流し、コンデンサで平滑化します。

トランスからの出力電圧は電流値によって変動します。 無負荷(無音)のときの振幅は 8.8 V ですが、 電流が増えると出力電圧は低下します。三端子レギュレータ への入力をできるだけ高くしたいので、 ダイオードは順方向電圧が小さいショットキーバリア ダイオード 1N5817 を用いました。

平滑化コンデンサは 10000 uF を用いました。 この容量で、 スピーカー端子に 6 Ωの抵抗を接続して、矩形波を出力する 場合、振幅 2.7 V までは、三端子レギュレータの 出力電圧を 5 V に保つことができます。

0.33 uF のコンデンサは発振防止用で、NJM7800 の データシート通りの値です。10000 uF が並列に 入っているので 0.1 uF でも問題ないと思います。

三端子レギュレータの負荷側に入っているコンデンサは 発振防止用です。データシートのサンプル回路では 0.1 uF と なっています。0.1 uF でも問題ないと思います。 7905 は 2.2 uF では発振し、1 uF を追加して合計 3.3 uF にすると 発振が止まりました。 余裕を持って 4.7 uF を追加しました。

7805 と 7905 では 7905 の方が発振しやすいように 思います。端子の順番が異なるのが原因かもしれません。 アンプが完成したら、信号発生器で正弦波や矩形波を入力し、 オシロスコープで「電源電圧」と「出力波形」を観測して、 発振していないことを 確認してください。耳では分からないことが多いです。 7905 の出力が「50 kHz で peak-to-peak が 1 V くらい」で ノコギリ波状に変動する現象に遭遇しましたが、 音楽を聞く限りでは 明らかに音がおかしいとは感じませんでした(「ちょっと 音が粗いかな」と感じる程度です)。

当初 2.2 uF のコンデンサに並列に 1000 uF のコンデンサを 接続していました。 振幅が大きな矩形波を出力した場合の電源電圧の 波形をオシロで観察すると、 コンデンサなしの場合は、電源電圧が矩形波状に 変化するのに対して、1000 uF のコンデンサありの場合は なめらかに変化します。 しかし、実際に鳴らす音楽は矩形波ではありません。 また、普通の音楽を鳴らした状態で、 コンデンサ「あり」と「なし」のときの 電源電圧を見たところ、どちらも安定していました。 1000 uF のコンデンサは不要と考え、撤去しました。

両電源がそれぞれ正常に動作していることを確認するため、 LED はプラス側とマイナス側で色を変えてあります。 抵抗値が異なりますが、私の手持ちの LED に合わせて視覚的に 同程度の明るさになるよう、抵抗値を選びました。

アンプ部

アンプ部の回路図は以下の通りです。画像を クリックすると、PDF ファイルが開きます。

オペアンプとダイヤモンドバッファを使ったノーマルな回路 です。

入力部は 10 kΩ の A カーブを使いました。 最初、50 kΩ を使っていたのですが、50 kΩ の場合、 片チャンネルをアースに接続し、もう片チャンネルに、 出力の振幅が 3 V 程度になるような 1 kHz の方形波 を入力(このときは増幅率を 15 倍に設定していたので、入力の 振幅は 3 V ÷ 15 = 0.2 V)すると、 クロストークにより、入力をアースに接続したチャンネルの スピーカーから明らかに音が聞こえました。 可変抵抗が 20 kΩ, 10 kΩ だとクロストーク音は全く聞こえません。 というわけで、入力部のボリューム用可変抵抗は 抵抗値が低いめの方が良さそうです。20 kΩ 以下なら良いと思われます。

±電源とアースの間に 1 uF のコンデンサが入っています。 これは発振防止用です。 デカップリング用コンデンサとしては 0.1 uF が ポピュラーな値ですが、0.1 uF では オペアンプの型番によっては発振が起こりました。よって、 かなり大きめのような気がしますが 1 uF を入れました。

オペアンプは 4580, 5532, 072, 2604, 2134 など色々試してみました。 微妙に味わいが異なります。 Web を見るとオーディオ用高級オペアンプとして 2134, 2604 の評判が 良いようです。回路図には 2134 を入れていますが、 好きなオペアンプを使えばよいでしょう。 ただし、オペアンプの出力電圧範囲によって、最大振幅が 異なります。このアンプの電源電圧は±5 V と非常に低いので、 出力電圧範囲が狭いオペアンプを使うと、アンプの出力電圧範囲 も狭くなります。2134 を使うと±3.5 V の出力が可能ですが、 2604 を使うと出力電圧範囲は -3.8 V 〜 +2 V と狭くなります。

オペアンプの増幅率は 20 kΩ の半固定抵抗で調節します。 私は iPod touch をソースとしているのですが、 10 倍くらいがちょうどいいように思えます。 正弦波や方形波を両チャンネルに入力し、ボリューム max の状態で オシロスコープで LR ch. の波形を重ねて表示し、 重なるように調整します。

オペアンプの直後の 100 Ω は発振防止用です。 当初、電源とアース間に 1 uF のコンデンサを入れていません でした。この状態で、ブレッドボードで実験したところ、 この場所に 1 kΩ 以上の抵抗を入れないと発振して しまいました。1 uF のコンデンサを入れての実験は していません。省略可能かもしれません。

トランジスタは手持ちの 2SC2655, 2SA1020 を使いました。 オリジナルの東芝製は生産中止ですが、 セカンドソースの互換品が秋月で 1 個 10 円で入手できます。 最大電流が 2 A, 最大損失が 900 mW です。 他のトランジスタでも良いと思います。 電源電圧が 5 V なので、オペアンプのマージンを考慮すると、 最大振幅は 3.4 V 程度です。3.4 V / 6 Ω ≒ 0.6 A なので、0.6 A 以上流せるものを選べば何でもよいでしょう。

L-2733 は定電流ダイオードです。 ここを抵抗にしている回路図もよく見かけますが、 抵抗にする場合、かなり低い値 (100 Ω) が必要です。 出力端子の振幅が 3.3 V のとき、6 Ωのスピーカーの 場合、最大電流は 3.3 V / 6Ω = 0.55 A です。 上側の 2655 のベース端子の最大電圧は 3.3 V + 0.55 A × 0.5 Ω + 0.7 V = 4.3 V に なります。0.7 V はベース―エミッタ間電圧です。 2655 の Hfe を 80 と見積もると、0.55 A / 80 = 7 mA を 2655 のベースに流す必要があります。 (5 V - 4.3 V ) / 7 mA = 100 Ω となり、 抵抗にすると、かなり低い値が必要です。

出力が負の最大値 -3.3 V に振れたとき、 上側の L-2733 の下端の電圧を考えます。 下側の 1020 のベース電圧は
-3.3 V - 0.55 A × 0.5 Ω - 0.7 V = -4.3 V
です。左下の 2655 のベース―エミッタ間電圧と 左上の 1020 のベース―エミッタ間電圧をそれぞれ 0.7 V とすると、 上側の 2733 の下端の電圧は
-4.3 V + 0.7 V + 0.7 V = -2.9 V
です。(5 V + 2.9 V) / 100 Ω = 79 mA の電流が 100 Ω の 抵抗に流れます。79 mA × 7.9V = 620 mW(瞬時値)となり かなり発熱します。

というわけで、抵抗より定電流ダイオードの方がいいです。 私が利用するのは 「共立」「マルツ」「秋月」ですが、L-2733 は秋月でしか 入手できません。マルツパーツなら E-183 が最も 電流値が大きい定電流ダイオードです。

上側の 2655 のベースに供給すべき電流は最大で 7 mA なので、E-183 でも 良さそうに見えます。しかし、定電流ダイオードは名前とは異なり、 データシート のように、全然定電流ではありません。 たとえば E-183 は電流値は 18 mA ですが、端子電圧が 2 V のとき 9.6 mA、 1 V のとき 5.4 mA です。ですから、ダイオードの 両端電圧が小さくなると、2655 のベースに十分な電流を 供給できません。

L-2733 を使うときの出力電圧の最大値は 3.4 V なのに対して、 E-183 を使うと 3.2 V となります。 振幅 3 V でもかなり大きな音なので、E-183 でも 問題はないでしょう。

なお、より大きな定電流ダイオードが必要な場合は、 定電流ダイオードを並列に接続します(出典:合点!  トランジスタ回路超入門 p.88)。

上側の 2655 と 1020, 下側の 2655 と 1020 は それぞれ熱結合(接着剤で貼り合わせる)します。 開発当初 0.5 Ω(E 系列にないので実際は 0.47 Ω)の 抵抗を入れてなかったため、 熱暴走を起こしました(出力側トランジスタの 電流がどんどん増えてゆく)。 熱結合すると熱暴走はしなくなりました。

そのあとで、0.5 Ω の抵抗を入れて負帰還をかける 方法を知りました。 出力端子の振幅が大きくなる(出力電流が大きくなる)と、 0.5 Ω の抵抗に流れる電流が増え、右上の 2655 のベース電位が 高くなり、出力電流を減らす方向へ負帰還が働きます。

出力端子の抵抗がない場合、熱結合は必須ですが、 0.5 Ω を入れた場合は、 熱結合なしでも大丈夫かもしれません。

出力端子の 2000 uF のコンデンサは直流カット のために入れてあります。 出力の DC 成分はプラスマイナスどちらになるか分からないので、 このコンデンサは無極性電解コンデンサです。 無極性電解コンデンサを探したところ、最大容量が 1000 uF だった (秋月で購入)ので、1000 uF を 2 個並列に 接続して 2000 uF にしています。 直流成分が発生する要因は 3 つあります。

  1. 入力に直流を重畳した波形が入ってくる
  2. オペアンプのオフセット電圧を増幅することによるオフセット
  3. オペアンプの入力バイアス電流によるオフセット

2. 3. は気にする必要はないかもしれません。 オフセット電圧が 0.1 V と見積もっても、スピーカーの 抵抗を 6 Ω と仮定すると、P = V^2/R = 1.6 mW です。 この程度ではスピーカーが焼損することはないでしょう。 とはいえ、無音時にスピーカーのコーンが偏った位置で静止するのは ちょっと気持ち悪いかもしれません。

1. は起こらないと仮定するなら、2000 uF のコンデンサは 省略可能だと思われます。どこかのサイトに「DC アンプの 音を聞くと、AC アンプの音は聞けない」と書いてありました。 その一方で「絶対に DC をカットするコンデンサを省略してはいけない」と 書いてあるサイトもあります。どちらが正しいかは よくわかりません。

電解コンデンサを入れると音が悪くなると色々な サイトに書いてあります。 私の耳では 2000 uF を入れると音の透明度が 若干低下するように思われます。

コンデンサを入れることによる音質への影響を より少なくするには、 スピーカーの直前に 2000 uF を入れるより、 入力のボリュームの手前に 2.2 uF のフィルムコンデンサを 入れたほうが良いでしょう (ただし、上記の 2. 3. には対応できません)。 2.2 uF と 10 kΩ が形成する ハイパスフィルタのカットオフ周波数は 7.2 Hz です。

ブレッドボードで試作しているとき、 何回かミスにより直流成分が発生してしまいました。 試作段階においては、 スピーカーの直前にコンデンサを入れておくと、 「何らかのミスにより、直流をスピーカーに流してしまい、 焼損させることを防げる」という安心感があります。

スピーカーと 2000 uF のコンデンサとの 組み合わせは、ハイパスフィルタです。 スピーカーが 6 Ωのとき、2000 uF のコンデンサとの 組み合わせによるハイパスフィルタのカットオフ周波数 は 1/(2 π R C) = 13.3 Hz です。

人間の可聴周波数は 20 Hz 〜20 kHz と言われていますが、 私の耳には 40 Hz 以下は聞こえません。 カットオフ周波数が 13.3 Hz のとき、40 Hz の正弦波は 90% の エネルギーが通過します。

カットオフ周波数が 13.3 Hz の場合、 100 Hz ではエネルギーは -0.1 dB 以下ですが位相のずれは、7.5 度残っています。 60 Hz ならエネルギーは -0.2 dB で位相差は 12.4 度です。 http://saya-audio.com/column.html(オーディオ開発者のコラム)によると、 位相差は 20 度以下なら大丈夫なようです。

とはいえ、三角波、方形波を入力し、オシロで 入出力波形を観察すると、差があります。 例えば 60 Hz の場合、三角波では僅かな差ですが、 方形波はかなり異なった波形になります。

耳で聞いてみると、60 Hz の方形波はブザーのような音なので、 2000 uF のコンデンサありとなしでの差はわかりませんでした。

アンプにおいて直流をカットするためのコンデンサを入れると、 それは RC のハイパスフィルタを構成します。 カットオフ周波数をいくらにすればよいかは、 悩ましい問題です。

書籍「ステレオ装置の合理的なまとめ方と作り方 桝谷英哉」の p.118 に 「不要な低域をカットすると、びっくりするほど低音に しまりが出る」と書いてあり、 書籍中のプリアンプとメインアンプの結合部分の CR ハイパスフィルタの カットオフ周波数は 15.4 Hz に設定されています。

一方で、書籍「真空管アンプの素 木村哲」の p.99 には 1 Hz 〜 10 Hz に 選ぶのが無難と書いてあります。

今回は基板上にスペースがなかったので 2000 uF が上限でしたが、 カットオフ周波数はもう少し低い方が良いように思われます。 スペースが許すなら 3000 uF の方が良いでしょう。

結局は、自分が使うスピーカーを接続して音楽を鳴らし、 自分の耳で判断するしかないと思いますが・・・