オペアンプ+トランジスタ による回路形式の考察

出力が片チャンネル 1W 程度のオーディオアンプを自作する 場合の回路形式について考察します。 とりあえず、真空管は除外します。

一番容易なのは、アンプ専用の IC を用いる方法でしょう。 386 や 1517 のように、「IC 1 個+数個の部品」で アンプが作れる IC が発売されています。 十分にいい音がすると思われますが、IC を使うだけでは、 何となく自作の楽しみが少ないように思われます。

次に容易なのは、オペアンプを用いて増幅を行い、 電流を増強するためにトランジスタを用いる方法でしょう。

一番難易度が高いのは、全てトランジスタや FET で組む場合です(ディスクリート 部品で組む、などと言います)。

Web 上の色々なサイトを見ると「ディスクリートが最も音が良い」ようですが、 回路がかなり複雑になるので、 ここではシンプルな「オペアンプ+トランジスタ」の回路形式に ついて考察します。

入力部分に可変抵抗を用いたボリュームを配置します。 次段の回路は入力インピーダンスが高い方がよいので、 オペアンプは非反転増幅回路を用いることにします。

エミッタフォロワー

図1 オペアンプとエミッタフォロワーによる回路
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一番シンプルなのは図1のように、オペアンプで増幅し、エミッタフォロワー で電流を増強する方法でしょう。 オペアンプには負帰還がかかっているので、バーチャルショートが成立し、 v_I = v_1 です。そして、

v_O = ( R_1 + R_2 ) / R_1 × v_I

という関係が成立します。R_1, R_2 は kΩ オーダー、 R_E, R_L は数Ωのオーダーなので、i_a << i_L となり、 以後の解析においては i_a = 0 と仮定します。

この回路の欠点は、常に「トランジスタ」と「R_E」に大量の電流を 流し続けないといけないことです。 電源電圧を±6V, 出力 v_O の振幅を 3V, 負荷抵抗 R_L = 6Ω と 仮定します。また、ベース電流 i_B は i_C, i_E に比べると 十分小さいので、i_C = i_E を仮定します。

この場合、R_E は 6Ω( = R_L ) 以下に設定する 必要があります。理由は後述します。ここでは 6Ωに設定して 考察します。

v_O = + 3V のとき i_L = 3V / 6Ω = 0.5A です。 i_E = ( v_O - v_- ) / 6 Ω = (3V + 6V) / 6Ω ≒ 1.5A です。 i_C = i_E + i_L = 2A です。 トランジスタの損失は 3V × 2A = 6W, R_E の消費電力は 9V ×1.5A = 13.5W です。

オペアンプの出力電圧は v_B = v_O + v_{BE} なので、 v_BE = 0.8V と仮定すると 3.8V です。 出力電流は i_C / β となります。β = 50 と仮定すると、 i_B = 2A / 50 = 40 mA です。

v_O = -3 V のとき i_L = -0.5A です。 i_E = 3V / 6 Ω = 0.5A です。 i_C = i_E + i_L より、i_C = 0 です。 トランジスタの損失は 0 W です。 R_E の消費電力は 3V × 0.5A = 1.5W です。

無信号時 v_O = 0 のとき、i_E = 6V / 6Ω = 1A です。 i_E = i_C なので、トランジスタの損失は 6V × 1A = 6W, R_E の消費電力は 6V × 1A = 6W です。

エミッタフォロワーでは、 「R_E における消費電力」「トランジスタにおける消費電力」どちらも 大変大きいです。13.5W に耐える抵抗、6W に耐えるトランジスタを 使う気にはちょっとなれません。

R_E の大きさが負荷抵抗と同等かそれ以下でないといけない理由は、 v_O = -3V のときを見ればよいでしょう。もし、R_E > 6Ω なら、 i_E < i_L となります。 トランジスタにおいては、「ベース → エミッタ」、「コレクタ → エミッタ」 という方向にしか電流が流れないので、0.5A の i_L を流すことができません。 i_L = i_E となり、結果として、波形の下側がクリップします。

今回は信号の peak-to-peak は電源電圧の半分でした。 振幅がこれより大きくなるときは、R_E をさらに小さく する必要があります。さらに消費電力が増えます。 というわけで、エミッタフォロワーの回路はシミュレータでは うまく動きますが、実装して動作させるのは困難です。

ダイオードを使った回路

図2 ダイオードを使った回路
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図2 はプッシュプルと呼ばれる定番的な回路です。

理論的には R_op, R_E は不要なのですが、実際には必要です。 R_op はオペアンプの発振を防止するためにあり、100Ω ~ 1kΩ 程度です。 R_E はトランジスタ Q1, Q2 の熱暴走を防ぐためにあり、 0.5Ω~1Ω 程度です。 ここでは R_op = 100Ω, R_E = 0.5Ω に設定します。 また、以下のように設定・仮定します。

負帰還が働いているので、常に

v_O = ( R_1 + R_2 ) / R_1 × v_I

となるように、v_op の値が変化します。

2 つのダイオードは、v_O の符号が変わるときに、 オペアンプの出力電圧がジャンプするのを防ぐためにあります。

v_O > 0 のときはトランジスタ Q1 が i_L を供給します。 i_C1 = i_E1 = i_L となります。 トランジスタ Q2 はお休み状態で、i_E2 = i_C2 = i_B2 = 0 です。

v_O < 0 のときは、トランジスタ Q1 はお休み状態で Q2 が働きます。

もう少し詳しく見てみましょう。 v_O = 3V のときの状況を考えます。 i_L = 3V / 6Ω = 0.5A です。i_E1 = i_C1 = 0.5A です。 上側の R_E にかかる電圧は 0.5A × 0.5Ω = 0.25V です。 V_BE = 0.75V と仮定すると、v_D1 = 3V + 0.25V + 0.75 V = 4V です。

Q1 の β = 50 と仮定すると、i_B1 = 0.5A / 50 = 10mA です。 I_1 = I_2 = 15 mA に設定したので、i_D1 = 5mA です。 V_F = 0.75V と仮定するので、v_m = v_D1 - V_F = 4V - 0.75V = 3.25V, v_D2 = v_m - V_F = 3.25V - 0.75V = 2.5V です。

Q2 にベース電流が流れるには、ベース-エミッタ間に 0.75V 必要ですが、 0.5V しかないので、ベース電流は流れず、従ってエミッタ電流、 コレクタ電流も流れません。 i_B2 = i_E2 = i_C2 = 0 です。

I_2 = i_D2 なので i_D2 = 15mA です。 i_op + i_D1 = i_D2 より、 i_op = 15mA - 5mA = 10mA となります。 I1 の 15mA のうち、10mA が Q1 のベース電流として取られて しまうので、その分を i_op が供給します。

v_O が正のとき i_op = i_B1, 負のとき i_op = - i_B2 です。

この回路の弱点は、 「トランジスタのベース電流 = オペアンプの出力電流」と なるので、i_op が 比較的大きくなることです。 R_op = 100Ω とすると、v_O = 3V のとき i_op = 10mA なので、 R_op にかかる電圧は 100Ω×10mA = 1V となります。

オペアンプの出力範囲から R_op にかかる 1V と R_E にかかる 0.25V を 引いた値が v_O の範囲となるので、v_O の範囲が狭くなります。

R_op を小さくしすぎると発振してしまいます。ネットを見ると 100Ω 程度の値が推奨されているようですが、 私のブレッドボードを使った実験では 100Ω, 200Ω では発振が 止まらず、1kΩにして発振がとまりました。 私の回路図では R_op = 1kΩ に設定しています。図 2 の 回路では R_op の上限は 200Ω 程度であり、 1kΩにはできません。

無信号時 v_O = 0 のとき、 i_B1 = i_C1 = i_E1 = 0, i_B2 = i_C2 = i_E2 = 0, i_op = 0 となり、 トランジスタ Q1, Q2 は共に off となります。 i_D1 = i_D2 = I_1 = I_2 であり、 常時流れる電流は i_D1, i_D2 だけで 15mA と小さな 値です。

結論として、この回路はエミッタフォロワーと比べると、 消費電力は遙かに小さくなりますが、v_O の取れる範囲が 狭いという欠点があります。

ダイヤモンドバッファ

図3 ダイヤモンドバッファ
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図3はダイヤモンドバッファと呼ばれる回路です。 図2の回路の弱点を見事に克服しています。

出力の部分は図 2 と同じです。 ダイオードの代わりにトランジスタ Q3, Q4 があります。 このトランジスタの役割は、ダイオードと同じであり、 V_BE = 0.75 V 程度の電圧を作って、v_O が 0V を横切るときに、 v_op がジャンプするのを防ぎます。

図2 の回路との違いは、以下の通りです。

図3 において、Q3 のコレクタ電流は I_1 - i_B1 です。

v_O = 3V のときを考えます。図2 と同様に

と仮定すると、i_E3 = i_C3 = 5mA です。Q3 の増幅率 β = 100 とすると、 i_B3 = 5mA / 100 = 0.05mA となります。

下側は I_2 = i_E4 = i_C4 = 15mA, i_B4 = 15 mA / 100 = 0.15 mA, i_E2 = i_C2 = i_B2 = 0 です。

i_op は i_B3 と i_B4 の差なので 0.1 mA となり、 図2 の場合に比べると 1/100 になります。

結論として i_op は i_B1(v_O が負のときは i_B2)の 1/100 になり、 R_op にかかる電圧は図 2 の 1/100 になります。 オペアンプの出力範囲から R_E にかかる 0.25V を引いた値が v_O の範囲となります。

というわけで、電源電圧が±5V のように小さい場合は、 ダイヤモンドバッファの方が優れた回路と言えます。