2022.9.6 最終修正
市販の AC アダプタを使います。 ここでは 15 V の AC アダプタに 12 V の三端子レギュレータ を使い、電源電圧は直流 12 V とします。
電源部分の回路図は以下の通りです。画像を クリックすると、PDF ファイルが開きます。
電源用基板の主な働きは以下の 2 つです。
ヒューズは 1 A です。 定常電流はこれより遥かに少ないですが、 後述するコンデンサの値の場合、 電源 on 時の突入電流に耐えるために、この値が必要です。 電源 on 時に「入力があり、ボリュームをかなり上げた状態」でも ヒューズが切れないようにするには 1 A が必要です。 電源 on 時にボリュームを絞っておくか、入力が 0 であることを 保証するならば、0.5 A でも大丈夫です。ただし、 この場合でも 0.3 A では切れてしまいます。
3端子レギュレータの入力側の 0.33 uF のコンデンサと 出力側の 0.1 uF のコンデンサは発振防止用です。 NJM7800 のデータシート通りの値です。
C_1 は入力電圧を平滑化するためにあります。 AC アダプタを使うので、発振防止用の 1 uF 程度の コンデンサでも問題無さそうに思われますが、 C_1 = 10000 uF としてハンダ付け してしまいました。大は小を兼ねるので、そのままに してありますが、おそらく不必要に大きいでしょう。
C_2 は発振防止用と、出力電流が急に変わっても 出力電圧が変わらないようにするためにあります。 アンプのサイトを見ると、 「3端子レギュレータの出力側に大容量のコンデンサを付けると 音が良くなる」と書いてあるサイトが多数あります。 この部分をソケットにして、容量が違うコンデンサを差し込んで 聞き比べをしてみましたが、聴感上はコンデンサの容量に よる音の差は感じられませんでした。私の耳では、 コンデンサなしでも音は変わらないように感じられました。 とりあえず C_2 = 2200 uF を差しています。
1N4004 は「出力側の電圧 > 入力側の電圧」と なったときに三端子レギュレータが破壊されるのを防止するためのダイオードです。 C_2 >> C_1 の場合は必要ですが、 上述のパラメータの場合は不要と思われます。
リレー回路の時定数は以下のように決めました。 スピーカー直前の直流カット用コンデンサは 3300 uF です。 スピーカーを 6 Ω とすると、 時定数は 3300 u × 6 ≒ 20 ms です。 時定数の 4 倍で過渡現象が終わると仮定すると、 充電に必要な時間は 20 ms × 4 = 80 ms です。
ベースより左側の回路(1 kΩ, 10 kΩ, 220 uF)のうち、 「電源, 10k, 1k」の部分をテブナンの定理を使って 置き換えます。 「12 V × 1kΩ / (1kΩ + 10kΩ) ≒ 1.1 V」 の電源と 「10 kΩ // 1 kΩ = 0.9 kΩ」の抵抗の直列接続に 置換できます。 時定数τは τ = 0.9 k × 220 u ≒ 200 ms です。 ベース電圧が 0.8 V でトランジスタが on になると 仮定します。 on になるまでの時間 T は、コンデンサの電圧が 直線的に増加すると仮定すると、 T = 0.8 V / 1.1 V × τ ≒ 145 ms です。 80 ms < 145 ms なので、ポップノイズは発生しません。 実際は、コンデンサの電圧上昇は最初は直線ですが、 徐々にゆるやかになるので、 リレーが on になるまでの時間はさらに長くなります。
定常状態において、ベース電流の量が十分であることを確認します。 トランジスタが on の時のベース−エミッタ間電圧を 0.8 V と仮定すると、 10 kΩ に流れる電流は ( 12 V - 0.8 V ) / 10 k ≒ 1.1 mA, 1 kΩ に流れる電流は 0.8 V ÷ 1k = 0.8 mA です。 ベース電流は 1.1 mA - 0.8 mA = 0.3 mA となります。 電流増幅率を 100 倍と仮定すると、コレクタ電流は 30 mA です。 リレー G6A-274P-DC12 を on に するために必要な電流は 16.7 mA ですから、リレーは on に なります。
より一般化して、電源電圧を V, ベース−エミッタ間電圧を V_BE, 10 k の抵抗を R_1, 1 k の抵抗を R_2, コンデンサを C と 置いて数式をたてて解くと、以下の結果が得られます。 ただし、コンデンサの両端電圧は直線的に増加することを 仮定します。
私のスピーカーは 6 Ω なので、リレーに接続する 抵抗として 6 Ω と記しています。6 Ω の抵抗は E 系列 にはないので、6.2 Ω の抵抗あるいは 12 Ω の抵抗 2 本を 並列に接続します。
両電源版に対して、「入力をシフトする部分」 「ゾーベルネットワーク」「出力をシフトする部分」が 付加されただけです。 異なる部分のみを説明します。
単電源なので、入力信号を「電源電圧 12 V ÷ 2 = 6 V 」シフト させる必要があります。6 V を作るのが左上の オペアンプです。12 V を 10 kΩ と 10 kΩ で分圧して 6 V を 作ります。電源電圧の変動を避けるため 100 uF のコンデンサを 入れてあります。これは十分すぎるほどの大容量です。おそらく 10 uF でも十分でしょう。それを オペアンプのバッファに入力し、安定した 6 V を供給します。
入力部は 10 kΩ の A カーブのものを使いました。 こうして減衰させた入力電圧を 2.2 uF のコンデンサと 47 kΩ の抵抗で 6 V シフトさせます。 2.2 uF のコンデンサより左側をテブナンの等価回路で置換すると、 入力側回路の出力インピーダンスは、ボリュームの中央部で 最大となり、5 kΩ // 5 kΩ = 2.5 kΩ です。アンプの 入力インピーダンスはこれの 10 倍以上としたいので、 最低 25 kΩ にします。
直流カット用コンデンサは 2.2 uF にしました (入手しやすいフィルムコンデンサの最大容量です)。 カットオフ周波数を 2 Hz 以下(十分低い周波数ということで 可聴周波数の下限 20 Hz の 1/10 に設定しました)に 設定します。そうするには 35 kΩ以上が必要です。 47 kΩ を選びました。カットオフ周波数は 1.5 Hz です。 入力インピーダンスはコンデンサを導通状態と仮定しても 47 kΩなので、 最低 25 kΩの基準はクリアしています。
あとは、両電源版とほぼ同じです。
スピーカーの直前に直流カット用コンデンサ 3300 uF が入っています。 両電源版のときはこのコンデンサは省略しても大きな問題は 発生しませんが、単電源版はこのコンデンサに平均 6 V の電圧が かかるので、必須です。省略するとスピーカーに大きな 直流電流 6 V ÷ 6 Ω = 1 A が流れるため、スピーカー が焼損する可能性があります。 両電源版では出力端子の DC 成分はどちらになるか 分からなかったので、無極性コンデンサを使いましたが、 単電源版では 6 V かかるので、有極性のコンデンサでも OK です。
スピーカーが 6 Ωの場合、3300 uF のコンデンサとで 形成するハイパスフィルタの カットオフ周波数は 1/(2 π R C) = 8 Hz です。 4700 uF に増量すると、カットオフ周波数は 5.6 Hz になります。 4700 uF でもポップノイズは大丈夫です。
理論的には上記のようになりますが、私が使用する スピーカーは 40 Hz 以下の音はあまり出ないので、 4700 uF に増量しても効果はなさそうです。
スピーカー直前のコンデンサの容量について、少し考察します。 1975.10 の電波科学の 「ソリッドステートプリアンプの徹底製作」という記事の p.213 に 掲載されている回路図では、スピーカーの手前に 3300 uF のコンデンサが 入っています。 1975.11 の電波科学の「特集・3 万円台アンプ 7 機種の回路図集」 に掲載されているオーレックス SB-220 の回路図では、 スピーカーの手前に 2200 uF が入っています。 1974.9 発行の「初歩のステレオ製作技術」の p.55 の パイオニア SA-60 (メインアンプ) は 2200 uF, p.212 の日本サウンド SA-2000 (プリメインアンプ) は 1000 uF, p.214 の日本サウンド SA-5001 (プリメインアンプ) は 1000 uF です。
当時のスピーカーがどの程度まで低域が出せたかは 分からないですが(低域が出ないのなら、低域を通す 必要はない)、以上を総合すると、 スピーカーの手前に 2200 uF 以上のコンデンサが 入っていれば問題ないと思われます。
私は一列ソケットを付けて、 コンデンサを取替可能にしています。 そうしておいて、自分の耳で聞いて判断するのが一番よいでしょう。
両電源版の電源電圧が±5 V だったのに対して、単電源版は 両電源に換算すると±6 V なので、最大振幅はわずかに大きくなり、 ±3.5 V となります。 最大出力は 6 Ω負荷のとき、1 W + 1 W です (実効値は 3.5 V ÷√2 = 2.5 V, P = V^2/R = 2.5^2 / 6 ≒ 1 )。
両電源版に比べると、トランジスタの発熱は増加します。 そこで、熱結合する 2 個のトランジスタは小さなアルミの板に 接着剤で貼り付けています(写真参照)。接着剤を付ける前に、 トランジスタ、アルミ板ともに紙やすりで磨いて表面を凸凹に しておきます。
オペアンプは 2134 と書いていますが、 色々と取り替えてみて好きなオペアンプを使えばよいでしょう。
出力端子付近の点線で囲んだ部分はゾーベルネットワークと呼ばれ、 発振防止用です。 386 というアンプ IC を使ってアンプを組んだときに、 これがないと発振するという現象に遭遇しました。 このアンプの場合、不要かもしれません。 ゾーベルネットワークの係数としてよく見かけるのは「10 Ω + 0.1 uF」 と「10 Ω + 0.047 uF」です。386 のデータシートには 0.047 uF と 書いてあります。私の経験ではどちらでも発振防止の 効果があります。音質への影響はないと思われます。 ここでは 0.1 uF の方を採用しました。
両電源版の回路図にゾーベルネットワークが 入っていないのは以下の理由によります。 このアンプは両電源版を先に作りました。その時点では ゾーベルネットワークは不要だと思っていました。 その後で、386 アンプを製作し、ゾーベルネットワークの 必要性を痛感しました。そのあとで単電源アンプを 製作しました。 「有効かどうか分からないが、とりあえず入れとこう」 ということで書いています。
アンプは「ダミーロードなら発振しても、スピーカーなら 発振しない」「オペアンプの型番を変えると発振する」 「可変抵抗を回して増幅率を変えると発振する」「L チャンネルは 発振しないが R チャンネルは発振する」など 色々と厄介な(不思議な)ことが起こります。問題が起こったなら、 その都度対処する必要があります。 適宜、発振器を用いて正弦波、三角波、矩形波を入力し、 オシロスコープを用いて、電源電圧の波形、出力電圧の波形 を観測してチェックすることが必要です。