声と足でクリックするマウス

2016.10

いきさつ(読み飛ばして構いません)

私は Illustrator で沢山のファイルを作っています。 最近、メインパソコンで描いた Illustrator ファイルを 別のパソコンに持っていくと、ギリシャ文字が全て文字化けするという 現象が判明しました。 膨大な個数のファイルを修正する必要があります。 修正は、1 つ 1 つファイルを開き、 1 つのファイルにつき、シングルクリックとダブルクリックを 何回も行う必要があります。

2 時間ほどその作業をすると、右腕が非常にだるく なってしまい、作業継続は無理でした。 1 日経っても、それほど回復しません。 そこで、以下の装置を開発しました。

使ってみたところ、非常に快適で、腕の負担なく、作業を終えることが できました。

概要

マウスの左クリックだけを肩代わりしてくれる装置です。 「ア」と声を出したらシングルクリック、 足でペダルを踏んだらダブルクリックしてくれます。

まず、パソコンにマウスを 2 個接続します。 そのうち 1 個は左クリック専用です。 下記のように分解し、 左クリックのスイッチの部分から線を引き出します。

分解したマウス 基板の裏面(左クリックの端子から線を引きだしている)

その線を以下の装置のリレーの端子に接続します。 リレーが on/off することで、クリックと同等の動作をします。


製作した装置の外観

この装置に、スマホ通話用のマイク付きイヤホンと、 足で踏むためのペダルを接続します。 私の場合、電子楽器用のペダルを持っていたので、下記のような ペダルを使いました。


ペダル

回路図とプログラム

回路図は以下の通りです。 左半分のマイクアンプの部分はマルツパーツの レールツーレールオペアンプLMC6482の使用レポート−簡易集音装置の製作実験 の回路をほとんどそのまま引用しています。 電源はパソコンの USB 端子か 5V の スマホ充電用 AC アダプタを使います。


(画像をクリックすると pdf ファイルが開きます。)

PIC16F88 のプログラム(MPLAB-X で開発)は ここ です。

オペアンプは単電源用の 6482, リレ−はオムロンの G5V-1 を 使いました。

私が使ったフットペダルはローランド社製のもので、 常時 on、踏むと off です。ヤマハやコルグはその逆なので、 ヤマハやコルグ製のフットペダルを使う場合は、図中 A で 示した 47k の抵抗とスイッチの位置を逆にして下さい。 逆にできるように、ソケットを使うと良いでしょう。

スマホ用のマイク付きイヤホンの端子は 4 極です。 今回購入したものは以下のような端子構成でした。

回路の説明

この回路のミソは図中 B のコンデンサです。 これを省略すると誤動作多発で使えません。 なお、100u は十分すぎるほど大きな値であり、 今回の回路の場合、10u でも問題ありませんでした。

ECM は音の大きさによって電流量が変わる 電流源として振る舞います。

Vcc ----- 抵抗 ----*---- ECM ----- Gnd

という回路構成で使い、* の部分に コンデンサを接続して交流成分のみを取り出します。

抵抗の値は 1k 〜 10k 程度の値が使われる ようです。最適値は、直流電源の電圧や ECM の型番 によって異なると思われます。

マイクの出力電圧をオシロで観測すると、 マイクと直列につなぐ抵抗の値が大きいほど、 無音時のノイズが小さくなりました。 ただし、20k にすると、音があっても出力が ほぼゼロになってしまいました。 10k 程度が最適だったので、4.7k × 2 = 9.4k としました。 この場合、直流的には 9.4k ですが、交流的には 4.7k です。

電子工作の教科書には

電源電圧を安定させるためには、 直流電源の + 極と − 極の間にコンデンサを入れる。 コンデンサとしては「高周波特性が悪いが大容量の電解コンデンサ」 と「高周波特性が良いセラミックコンデンサ」を並列に 入れる。

と書いてあります。 この回路の図中 C のコンデンサはその教えに従っています。

今回の回路においては、リレ−の on/off が切り替わる 瞬間に電源電圧が微小変動し、その微小変動がマイクの出力 に加算され、増幅(100〜1000 倍)されて、 発振のような状態が起こり、 誤動作を引き起こすという現象に悩まされました。

図中 C の電解コンデンサを 4700uF のような大きな 値に変更しても、誤動作を防止することはできませんでした。

ところが、図中 B のコンデンサを入れると、 誤動作は全くなくなりました。

C のコンデンサに流入(流出)する電流を 制限するものは「電源の内部抵抗」や「配線の抵抗」であり、 非常に小さいです。それに対して、B のコンデンサは 「電源との間」「マイクとの間」のどちらにも 4.7k の 抵抗があるので、コンデンサ B に蓄えられた 電荷は急に増減せず、その両端電圧はほぼ不変です。 ゆえに、電源電圧の変動がマイクの出力に影響しません。

それ以降の部分は教科書通りの回路です。

マイクの出力電圧 VA に対して 0.1u のコンデンサを通すことで交流成分のみを取り出し、 5V を 100k + 100k で分圧することで、2.5V を加算します。

「0.1u のコンデンサ」と「交流的には 100k 並列 → 50k」で ハイパスフィルタを構成しています。カットオフ周波数は、 1/(2πRC) = 30 Hzです。

オペアンプの増幅回路は、単電源の非反転増幅回路を 2 つ 直列に接続しています。 増幅率は 1 段目は 100 倍、2 段目は最大 10 倍です。 10u のコンデンサは VC, VD の 電圧を 2.5V シフトさせる働きがあります。

こうして増幅した波形を 10u のコンデンサによって交流成分 のみ取り出し、5817 によって半波整流します。 ダイオ−ドの順方向電圧はできるだけ小さい方が良いので、 5817 はショットキ−バリアダイオ−ドです。

1u と 100k によって、包絡線を取り出します。 時定数は RC = 100 ms です。 それをマイコンに入力します。

リレ−と並列に逆向けに入っている 4004 は 還流ダイオ−ドです。リレ−が off する瞬間に リレ−端子両端に発生する高電圧により、 トランジスタが破壊されることを防ぎます。