初版 1999.2.16
大幅更新 2000.11.17
最終更新 2006.3.13
(注意) 2010.3
この記事は現在の状況をサポートしていません。古くなっている箇所が
多数あると思われます。
1. はじめに
工学や理学では大抵の場合、結果をグラフで表示します。
だから、グラフ描画ツールというのは研究において一番重要なツールです。
現在、研究のプラットフォームとしては Windows と
Unix の 2 つが主要なプラットフォームであると思われます。
事務処理においては Windows 全盛の世の中ですが、
研究用としては Unix の方が
ふさわしい場合が多いと思います。Unix では 1 台のマシンに
複数の人間が同時に login できるので、
資源を有効に活用することが出来ます。
Linux や FreeBSD などの PC-Unix の急速な普及もあり、
大抵の大学の数値計算関係の研究室では PC-Unix で研究をしている所が
多いと思います。従って、ここでは Unix 上における
フリーのツールについて話を進めていきます。
( Windows 上のツールは「窓の杜」や「ベクターデザイン」に
行けば、沢山のツールがあります。また、Unix 上の
有料のツールとしては Mathematica や Matlab のグラフ
描画機能を使う方法が有力だと思われます )
2. Unix でのグラフ描画における問題
Windows では図形や文字を描画するのに描画オブジェクトに 対して描画命令を出します。描画オブジェクトが「ウィンドウ」の 場合は画面に描画し、描画オブジェクトが「ファイル」の場合は ファイルに出力します。たぶん「プリンタ」に出力する のも同じでしょう。つまり、「画面に書く」「ファイルに書く」 「プリンタに書く」のを同一のコードで実現できます。
描画先をファイルに設定した場合に 生成されるファイルが Windows Metafile です。つまり、 Windows Metafile は GDI 関数の種類と引数を記録した ものです。Windows Metafile をクリップボード へ貼り込むことにより、他のアプリケーションで取り込む ことができます。また、プリンターへの出力は、プリンタドライバ が各プリンタの差を吸収してくれるので、如何なる種類の プリンタからも出力することができます。
文字の描画に関しては、Windows は OS としてフォントを サポートしており、そのフォントはアウトラインフォント である TrueType ですから、 美しい文字出力が得られます。Windows は OS として 図形の描画をサポートしています。
それに対して、Unix は描画の環境については 全く絶望的な状況です。 Unix が開発された時代はタイプライタ 端末の時代なので、Unix は OS として 描画機能をサポートしていません。 ゆえに、「画面に書く」 「プリンターに出す」「他のソフトに取り込める形式で書く」 の 3 つの描画が共通に出来ません。Unix が開発された時代は、 CPU パワーをはじめとしてあらゆるデバイスが貧弱だったので、 WYSIWYG は夢の話でした。また、画面に出すこととプリンターに出す ことは全く別のこととして認識されていたようです。
Unix においては、図をディスプレイに描画したい ときは X-Window の API をコールします。
プリンターに関しては、Unix では PostScript プリ ンター ( 以下 PS と略 ) が事実上の標準となっています。 TeX に取り込みが可能なのは PostScript 形式だけですし、 その他のプリンターから出力する時は、PS ファイルを ghostscript に よって各プリンタの形式に変換するのが慣例なので、 プリンターからの出力は Postscript だけをサポートすれば よろしい。
まとめると、Unix では画面に描画する時は X Window の API を コールし、プリンターに出すときには PostScript ファイルを 作成する必要があります。 そして、X-Window の API と PostScript 言語は、水と油のように、 全く異なる世界です。 おまけに、X-Window に描画する時は X 付属のフォントを 使い、PS プリンターから出力する時は PS プリンターの 内蔵フォントを使います。そして、X と PS がサポートしている フォントが同一とは限りません。さらに、 PS プリンター内蔵のフォントの情報はプリンター外からは 見えません。
日本語は全ての文字が等幅なので、別のフォントで代替しても 原則としてレイアウトは崩れませんが、 欧文フォントは各文字の 横幅が異なります。だから、X-Window と PS プリンタでの文字の 見栄えを同じにするには、X と PS で各文字の横幅が同じフォント を使う必要があります。X と PS の両方に Helvetica , Century などの フォントがありますが、フォントの横幅情報を得ると、 X のフォントはドット単位で得られるのに対して PS プリンター のフォントの横幅は有効数字 3 桁で得られます。 つまり、X と PS のフォントは異なると言えます。
余談ですが、2001.3 の時点で XFree86 に付属する スケーラブルフォントな欧文フォントは Courier のみ であり、Helvetica などの他のフォントは bitmap しか付属して いません。スケーラブルな Helvetica を使うには plotutils-2.2 など に付属して付いてくる PS クローンのスケーラブルフォントを インストールする必要があります。
PostScript フォントをサポートする ツールの多くは、何らかの方法で PostScript フォントの各文字の 横幅情報をプリンター外へ取り出し、その情報を ツール自身が定数として保持しています。 そうでないと、文字列をセンタリングしたり TeX で取り込む時に 必要となる BoundingBox を設定することが出来ません。
このように、X と Postscript はフォントが共通でない上に、 Postscript のフォント情報はプリンター外から見えないので、 文字を扱う時には多大な苦労が必要です。
次に、作成した図を Tgif や idraw などの CAD ソフトで 取り込んで編集したい場合、 Unix では Windows メタファイルのような 共通の形式がないので、 それぞれの CAD ソフトの独自形式に変換する コンバータを個別に作る必要があります。
最近では、学会発表などのプレゼンテーションでは PowerPoint の シェアが圧倒的です。いずれ、プロジェクターが一般的になると、 PowerPoint を使わざるを得なくなるでしょう。 ゆえに、今後は、Unix 上のツールと言えども、 作成した図をベクトルデータである Windows Metafile 形式で PowerPoint に取り込める機能が必須となるでしょう。
フリーのツールである pstoedit ( pstoedit_win.zip という名前でネットワークのどこかに あるでしょう ) を使うと、原理的に PS ファイルを Windows Metafile に変換することが可能です。 ここ に詳細を述べてあります。 ただし、日本語が通らなかったり、いくつか難点があります。
「プリンターに出す」「 X-Window に描画する」「他の CAD ソフトで 編集できる形式に変換する」を満足するために、 Unix のグラフツールは「 Windows Metafile に相当する 図形を表す中間ファイルを独自形式で保持する」という ツールが多いようです。
以上のように、Unix は OS として描画情報を管理する機能を 持っていません。特にフォントを OS 自身が持っていないのが 致命的です。だから、Unix 上で図形を描画するソフトを作成するのは 原理的に非常に困難な世界です。
何と言ってもフォントの管理が一番の問題なので、 フォントの観点から Unix 上のグラフツールを 3 つに分けると以下のようになります。
元々汎用機で動いていたツールはこの方式が多いようです。 このタイプのツールは、例外なく hershey font というフリーの フォントを使っています。hershey font はストロークフォント ( 線で 表したフォント ) なので、 TrueType のようなアウトラインフォントに比べると かなり見劣りがしてしまいます。また、ストロークフォントは拡大しても 線の幅が変わらないという欠点もあります。 今となっては、ストロークフォントを使うツールが作成する 図はかなり見劣りがしたものになってしまいます。
このグループに属するツールはスケーラブルフォントを持たない テクトロニクス端末にも表示できるメリットがありますが、 今となってはテクトロニクス端末は時代の遺物でしょう。
理論的には TrueType フォントをインストールして VFlib ( 広島大学の角川裕次さん製作のライブラリ ) を使えば アウトラインフォントを自分で管理することが出来るようです。X への表示も プリンターからの出力も TrueType フォントを使えます。しかし、 プログラミングが繁雑になるためか、この方式のツールは まだ無いようです。また、この方式のツールでは文字は 塗りつぶし図形として表現されますので、作成した図を Tgif や idraw で再編集して文字を付加した場合、 Tgif や idraw で付加した文字は PS フォントを使うので、 文字のバランスが悪くなると思われます。
X-Window と PS プリンターのどちらにも Helvetica, Courier という PostScript フォントがあるので、これらのフォントを使います。 このタイプのツールの多くは PS Printer 内蔵フォントの横幅情報を ツール自身が保持しています。 X-Window にスケーラブルフォントがインストールされていない場合、 X-Window における見かけはプリンターから印刷されるもの とは若干異なる可能性があります。
この方式は X への表示のレスポンスが悪くなってしまうので、 CPU が Pentium 200 MHz 以下の時代は快適ではありませんでしたが、 CPU のクロックが最低でも 1 GHz という今では有力な方式かも知れません。 この方法は、作成した図を Windows に持ってくるのが難しいという 欠点があります。pstoedit には色々と難点があり、日本語が 使えません。
解決の糸口として、2000.10 頃に W3C で決まった SVG ( scalable vector graphics ) というフォーマットがあります。 こちら の SVG の項で分かりやすく解説されています。 Web ブラウザで表示するベクトル図形データ の標準規格だそうです。すでに、Illustrator 9.0 は SVG 形式 での出力に対応しています。XML 形式で書かれており、 少し見たところ、作成するのは容易そうですが、読み込んで理解 するのは難しそうです。SVG ファイルの X-Window での ビューワと Postscript 形式へのコンバータが開発されたら、 グラフは SVG 形式で出力するのが良いのかも知れません。 SVG のビューワは Adobe で配布されており、2003.3 の時点では Win98-XP 版と Mac 8.6-9.1 版しか用意されていません。
3. 研究に必要なグラフとは
誰もがやったことが無いことを行うのが研究ですから、研究でグラフを 書く場合、独自のグラフを書くことが多いと思います。だから、gnuplot の ような汎用ツールではかゆい所に手が届かない場合もあります。
グラフを書くためのツールをプリミティブな度合という観点で分類すると、 次のようになるでしょう。
順番に解説して行きましょう。なお、以下の情報は 1999.2 頃の 調査結果に若干の修正を加えたものであり、誤っている可能性が あります。
3.1 線を書く、文字を書くという基本機能のみをサポートするツール
3.1.1 PostScript ファイルを直接書く
PostScript ファイルを直接書くというのが一番原始的な方法です。
moveto lineto setlinewidth stroke closepath showpage fill setgray を
知っていれば塗りつぶしを含む線画は書くことが出来ます。
文字を書く場合は、 それに加えて findfont setfont scalefont show を
覚えれば良いです。ですから、直接 PS ファイルを書くことはそんなに
難しいことではありません。
ここで簡単な解説をしています。
PS ファイルを書くことに関しては
アスキー出版局から出ている
「PostScript チュートリアル & クックブック」( 通称 青本 )
が非常に分かりやすくお奨めです。また、PostScript を本気で扱う場合、
結局「PostScript リファレンスマニュアル」( 通称 赤本 ) が
必要になるようです。
Web 上では以下のページが非常に有用です。
ftp://ftp.kek.jp/kek/unix4hep/chap13.txt
3.1.2 C や Fortran からコールして使うツール
呼び元・・・・Fortran
出力先・・・・PostScript
フォント・・・アウトラインフォント
東大の地震研究所の吉井敏尅さんが作られたサブルーチン集です。 ここ から入手することが出来ます。
呼び元・・・・C or Fortran
出力先・・・・PostScript
フォント・・・アウトラインフォント
このツール は calcomp 互換のサブルーチン名を持っています。
呼び元・・・・C
出力先・・・・PostScript, X-Window, xfig
フォント・・・アウトラインフォント
東京大学の渡辺尚貴さんが配布されているライブラリです。 ここにあります。
呼び元・・・・C or Fortran
出力先・・・・PostScript, X-Window, Windows Metafile, Tgif, idraw
フォント・・・アウトラインフォント
私が自作してここで GPL として 配っている calcomp ライブラリです。
呼び元・・・・C or Fortran
出力先・・・・X-Window
フォント・・・X 付属の bitmap フォント
名古屋大学の 山内千里さん が配布しておられる X Window System への描画ライブラリです。 「簡単に美しいカラーのグラフィックスが作れる」ことを目的として 設計されています。 描画先は X-Window のみをサポートしています。 描画結果はカラー画像として得られ、ベクトルデータを出力する機能はありません。 ただし、スムーズなアニメーションを作ることができるレイヤー機能 を持っています。
Tcl/Tk の canvas に描画し、その結果を PostScript で落とすことが
出来ます。この方法は、Tcl/Tk という新しい言語を学ぶ必要が
あるので、少し敷居が高いのですが、canvas に描画するだけ
なら、それほど難しくありません。ただし、Tel/Tk の canvas 機能
には、傾いた文字を書く機能がないようです。y 軸に付ける
キャプションは 90 度傾いた文字が必要なので、これは困ります。
しかし、tcl/tk を拡張する BLT というツールキットがあり、
これをインストールすると、グラフが簡単に作成できるようです。
BLT については Linux Japan 2001.8 p.30 で説明されています。
CAD ソフトとして有名な Tgif は独自形式のファイル ( 拡張子は obj ) で 図形情報を格納します。この obj ファイルはアスキーファイルであり、 フォーマットは易しいので ( Text の部分の詳細は良く分からない )、 obj ファイルを作ることは、それほど難しくありません。 obj ファイルを作れば、それを X に表示するのと、 PostScript に変換するのは Tgif が行ってくれます。
3.1 節での方法では、座標軸を書いて数値を付けるのも自力でする必要があります。 この手間を省くため、座標軸を書いたりする汎用的な機能を持つ ライブラリがあります。たとえば、
call setlinewidth(4) call draw_axis(xorg,yorg,xlength,ylength,xmin,xmax,ymin,ymax) call draw_line(xarray,yarray,n)のような感じで、サブルーチンを次々に呼ぶことにより、 グラフを書くことが出来ます。 この形式のライブラリとしては私が調べたところ次のようなものがあります。
呼び元・・・・Fortran
出力先・・・・X-Window, Postscript, その他
フォント・・・hershey
アメリカで開発されたライブラリで世界中で広く使われているようです。
京都大学の大型計算機センター
にも移植され使われています。以下に分かりやすい解説があります。
http://www.fluidlab.naoe.t.u-tokyo.ac.jp/softwares/
FreeBSD でコンパイルして構築できました。
デフォルトでは y 軸に付く数値が 90 度傾いてしまいます。 また、グラフの美しさという点では、 デフォルトで描かれる図は、文字の大きさと軸の長さなどの バランスがあまり良くないように思えました。
呼び元・・・・Fortran or C
出力先・・・・X-Window, Postscript, kdraw, 他
フォント・・・hershey
日本人の開発によるもので、500 ページ以上にも及ぶ日本語マニュアルがある
非常に巨大なライブラリです。非常に多機能で、
軸に Jan, Feb, May といった文字を付けたりすることも出来ます。
詳しい日本語マニュアルがあるのが嬉しいところです。
現在も開発が続けられており、最近 f90 から呼べる
バージョンも登場しました。Windows 版もあります。
詳しくは以下のページへ。
http://www.gfd-dennou.org/arch/dcl/
FreeBSD でコンパイルして構築できました。
デモプログラムを実行してみた感じでは、日本人が作ったものらしく 非常に細かい所まで配慮が行き届いているように思えました。
呼び元・・・・Fortran
出力先・・・・下位のカルコンプライブラリに依存
京大の佐藤亨さんが開発されたライブラリで、もともとは 京大大型計算機センターのプロジェクトとして開発されたもののようです。 その後、佐藤亨さんや北野正雄さん他などの努力により、Unix へ 移植されました。 かつては、SunOS 4.x 用と思われる版が ftp://ftp-lab26.kuee.kyoto-u.ac.jp で公開されていました。 上記の ftp サイトには yacg という calcomp 互換のライブラリも 収録されていました。 しかし、私は 3.1.2 で紹介した自家製の calcomp 互換 ライブラリで xygraph を受けています。 この自家製 calcomp ライブラリと若干の改良を加えた xygraph を私の ホームページで公開しています。こちらです。 このライブラリが作製する軸の刻み間隔などは大変美しいと思います。 中身を大体把握しているので私にとっては一番便利なライブラリです。
呼び元・・・・Fortran
出力先・・・・X-Window, Postscript, その他
フォント・・・hershey
アメリカで開発されたパッケージのようです。
topdrawer という理学の物理関係者
の間でよく使われているツールの基盤となっています。理研の岡村弘之さんという
方が Linux などに移植されたようです。マニュアルは英文で 350 ページ
程もありかなり大規模なライブラリのようです。マニュアルを少し
読んだ限りでは非常に古くに作られたようです。
ファイルは以下の場所からダウンロードできます。
ftp://iris.riken.go.jp/pub/ugs/
これは、FreeBSD では make 一発では構築できませんでした。Linux では
大丈夫なようです。
呼び元・・・・Fortran
出力先・・・・X-Window, Postscript, その他
フォント・・・hershey
京大の福山淳さんが作られた Fortran から利用できる 2 次元
グラフィックライブラリ。マニュアルは日本語です。デモプログラムを
起動したところ、インターフェースがテクトロニクスのグラフィック端末
と同一であり、少々使いにくいように思えました。但し、改造は
容易でしょう。
http://p-grp.nucleng.kyoto-u.ac.jp/~fukuyama/gsaf/
FreeBSD で構築できました。
呼び元・・・・C or Fortran
出力先・・・・X-Window, Postscript
フォント・・・アウトラインフォント
龍谷大学の理工学部において開発された 2 次元関数の等高線図や鳥瞰図を
書くことの出来るライブラリ。以下のページから紹介されています。
マニュアルは日本語で 100 ページ程です。主に C で書かれています。
軸に数字を付ける機能はありませんが、文字を書くことは出来ます。
ファイルは製作者の一人である
小林亮さん
の Web サイトにあります。FreeBSD で構築できました。また、製作者の一人
である
高橋大輔さん
の Web サイトに Windows 版とオンラインマニュアルがあります。
呼び元・・・・Fortran
出力先・・・・Postscript, PC-9801 DOS 画面
フォント・・・独自のストロークフォント
岩波書店から上記の名前の書籍が売り出されており、書籍に掲載されている
プログラムを収録したフロッピーディスクが売られています。
以下のアドレスから購入できます。フォントは少し貧弱です。
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/14/7/1400190.html
私はこの本から多大な影響を受けました。
著者である森正武さんは東京大学を退職されて、現在は京都大学
数理解析研究所の所長をされているようです。
森先生の東大の研究室のホームページは
http://momonga.t.u-tokyo.ac.jp/
です。このページには数値計算関係の有用なリンクが沢山あります。
3.3 データを用意し、グラフ描画用インタープリターを呼ぶ方法
データを用意して、グラフ描画用のアプリケーションを使って 図を書く方法があります。以下のようなツールがあるようです。 ここでのツールは全て出力フォントとしてはアウトラインフォントを サポートしています。
出力先・・・・Postscript, Tgif, 他
あまりにも有名なのでこれは紹介するまでもないでしょう。 gnuplot に関する情報は こちら にまとめてあります。
出力先・・・・X-Window, Postscript, Windows Metafile
知る人ぞ知る超有名ソフトです。 PC-9801 の全盛時 ( 〜 1994 年頃 )、 Excel はまだ無く、パソコンでグラフを書く場合は、 これしか選択肢がありませんでした。当時パソコンで 研究をしていた人は、一度はお世話になった ソフトだと思います。 作者の石坂智さんは NEC の研究所に勤める研究者のようです。 電子情報通信学会の全国大会の発表者リストの中に名前を見つけました。 石坂さんのホームページ によると 石坂さんは 1992 〜 1995 の間お休みされていた そうです。Windows 版がなかなか出なかったので、待ちこがれた 人も多かったことでしょう。Ngraph の Windows 版は 1996 年に発表され、 1998 年頃から Linux 版もバイナリのみ公開されて いました。そして、ついに 1999.4 から ソースが公開されました。 伝説となった Ngraph のソース公開には興奮した人が 多いのではないでしょうか。但し、構築には X のツールキットである Motif が 必要です。Motif は商品なので Linux , FreeBSD などの標準環境 では構築できませんでしたが、2000.6 頃にソースがフリーで 公開されました。また、以前から Motif 互換のフリーなライブラリ LessTif というのもあります。 Ngraph のメイクファイルには LessTif を使用する 場合の設定も書かれています。
出力先・・・・X-Window, Postscript, Windows Metafile
Windows 上のグラフ描画ツールとして結構メジャーだと 思われる Plots32 の作者である川浦久雄さんが作られたソフトです。 川浦久雄さんも NEC の研究所に勤めておられます。石坂智さんとは 知り合いだそうです。 CUI インターフェース を基本とし、perl のサブセットであるスクリプト言語も 装備しています。作者のホームページは こちら です。Windows 版もあります。 詳しい日本語チュートリアルも用意されています。
使用した感じでは PC-9801 全盛時に MS-DOS 上で広く使われていた Ngraph に非常に似ている感じがしました。 gnuplot のようにコマンドを知らなくても、メニューに従うだけで グラフが作れるので、とりあえずグラフを書きたい時には非常に便利 です。作者が自画自賛しているように、キャラクタベース の操作は大変快適です。 但し、デフォルトで作られる PS ファイルは、非常に線が太いです。 線の太さはカスタマイズできるので変更した方がよいでしょう。
プログラムは C++ で開発されており、高機能なマクロ言語が実装されている など、大変に高度なプログラミングテクニック が使われているように思われます。もちろんソースファイルも公開されて います。X への表示、Windows Metafile の作り方、PostScript への変換など、 ソースファイルは大変参考になる面が多いと思います。
出力先・・・・X-Window, MS-Windows, Postscript, Windows MetaFile, 他多数
2004 年に登場した新しいグラフ描画ソフトウェアです。 ここで 公開されています。 Java で書かれているので、Linux, Windows, Mac の上で動作可能です。 マウスを使った分かり易いユーザーインターフェースを持っています。 1 つの紙の上に複数のグラフを描くことも可能です。 しかし、samurai graph を実行するには、Java 環境 のインストールが必要なため、Unix 環境では インストールに関する難易度は高いです。
出力先・・・・X-Window, MS-Windows, Windows Metafile, Postscript(画像?), PNG
2003 年に登場した新しいグラフ描画ソフトウェアです。 ここで 公開されています。 Kylix ( Object Pascal ) で書かれており、動作するためには Kylix 用の ライブラリをインストールする必要があります。 インストールの難易度は高いです。FreeBSD の /bin/sh では インストール用の B-shell スクリプトでエラーが発生し、インストール 出来ませんでした。Windows 版もあり、こちらは出力として Windows Metafile を サポートしています。
出力先・・・・X-Window, Postscript, Windows Metafile, Tgif, idraw
京大の高橋信行さん ( 現 : 公立はこだて未来大学 ) が作られたグラフ描画用 インタープリタです。 描画用コマンドとデータを一つのファイルにまとめるという新しいアイデアで 作製されており、非常に便利です。 下位のライブラリとして xygraph と自家製 calcomp が使われています。 これまで内輪で使われており外部には公開されていませんでした。 高橋さんの許諾により 私のホームページで初めて公開しました。 こちらです。 私にとってはコマンドの増設などが自分で出来るので大変便利なツールです。
出力先・・・・Postscript
丸山敏毅さんが作成されたグラフ描画ソフトです。 ここで配布されています。かなり複雑なグラフも描けるようです。
地図情報を書くのに便利なツールのようです。
以下に解説があります。
http://www.fluidlab.naoe.t.u-tokyo.ac.jp/~minnie/pgplot/GMT.html
理学部の物理分野では業界標準とされているツールのようです。 ここに 簡単な説明があります。 ファイルは ここ からダウンロードできます。 Linux 版のバイナリも用意されています。FreeBSD では make 一発では 構築できませんでした。
簡単なグラフなら xgraph で書くこともできるようです。 私は使ったことがないので良く知りません。
xmgr というツールは xgraph より高度なグラフが書けるようです。
以下のページは xmgr に関する日本語の説明があるページです。
京大の豊田さんのページ
CERN によって開発され、素粒子物理業界では
標準的に用いられているツールのようです。
以下のページで解説されています。
猿でもできる PAW
簡単な PAW の使い方
Windows が普及する前、MS-DOS が使われていた頃に Ngraph と 並んである程度使われていたソフトのようです。 ここで配布されています。 1997 年以降開発がストップしている模様です。 出力先として Windows Metafile, PostScript などをサポートしています。
東京電機大学の松田七美男さんは gnuplot に関する国内随一のサイト を開いておられ、Linux Japan(今は休刊) という雑誌での連載記事などでも有名な方ですが、松田さんのサイトの中に データの可視化と解析ツール というページがあります。 このページで多数のグラフ描画ツールの描画結果を画像で比較することが 出来ます。このページは全く素晴らしい。
以下のページは興味深い情報を提供しています。
また、 Linux 上で動く科学技術計算のアプリケーションのページ というページもあります。このサイトには科学技術計算 のためのあらゆるアプリケーションが集められているようです。 英語のページであり、そこで紹介されているソフトも全て 海外製のものなのでかなり敷居が高いですが、そこを見ると、 グラフ作成のためのアプリケーションは 100 個以上も並べられています。 一つづつ試すのは不可能に近いので、ソフト名をキーワードにして google や Infoseek で使い方を紹介した日本語のページを探すことにより 選択の参考とすると良いでしょう。
5. おわりに
グラフィックツールとして何が優れているか? というのは難しい 質問です。私が思うに、特殊なグラフを書くためにはどうしても ソースファイルレベルでのカスタマイズなどが必要となることが多い ように思えます。こうなると「内容を把握したものが一番良い」という ことになります。つまり、「最小限の機能がコンパクトに実装 されている」ものが優れたツールだと思います。 だから、私は自作の calcomp ライブラリと xygraph , nsgraph を 使っています。「内容を把握しやすい」という点から考えると あまり大規模なパッケージは使いにくいかも知れません。
ここで紹介したものは、無料かつソースファイルも公開されています。 Unix の世界ではこのように数々の優れたツールがソースファイルつきで 公開されています。ソースファイルが公開されている ので、自分専用に改造することも出来ます。それに比べて、Windows の 世界は「窓の杜」を見る限りバイナリのみしか 公開されておらず、 Sma4Win などのように過半数がシェアウェアです。 Unix の世界では今でも「ソースを公開する」という良い伝統が 受け継がれているようです。
私が卒業した同志社大学は理学部がありません。 今勤めている大阪府立大学も理学部がありません。 ですから、私にとって理学部はかなり遠い存在で工学部は身近な 存在でした。グラフを書くツール → コンピューター → 情報工学 or 電子工学 と いう連想により、私はほとんどのグラフ描画ツール類は工学部の人々が 作っているのだと思っていました。ところが、実際は ほとんどが理学部の人の手によるもので、特に東大の理学部の人々は 広範囲な貢献をしていました。これは私にとって新しい世界を 覗いたような非常な驚きでした。
なお、人名は google や Infoseek での検索を考えて、出来るだけ 姓名全てを載せるようにしています。また、敬称は大学の先生で あっても「さん」で統一しました。